職人インタビュー

職人STORY 鶴田 清忠

創業以来この工場で印刷ひと筋、今や工場の生き字引的存在

中学を出た年に集団就職で上京し、住み込みで就職。ほぼ創業時からこの会社にいて、他は知らずに仕事をしてきた。別に、印刷の仕事をしたいと思ってたわけじゃないけど、結果的には自分の性格に合ってたなと思う。細かい仕事をするのは、好きだからね。ここには、俺みたいにこの仕事に向いてる人が集まってると思うな。みんな真面目でコツコツ、几帳面。毎日きっちりいい仕事をしているよ。

若い頃に比べると、仕事の内容はだいぶ変わったよね。難しくなってる。年々、お客さんの要望が厳しくなってるなと感じるね。コンピューターでも簡単に印刷できる時代だから、手仕事の印刷には、それを上回る物を作ってほしいんだろう。

機械は新しいものほど性能もいいし、操作も簡単。でも、微調整はまだ人頼みだね。インクの配合なんかも、まだ感覚でしかできない。ベタもののノリ具合も、そうだね。全面に下地を印刷するのは、ムラが出やすくてシール印刷では難しい作業なんだよ。寒い日と暑い日ではインクの柔らかさが違うから、うまく調整しないとすぐムラになってしまう。そこに何にもないと思うくらい、ツルッときれいに仕上げるのがコツなんだ。

色出しは、本当に奥深い。たとえば、人間は多少暑くても我慢できるけど、インクは我慢してくれないから冷房で冷やしてあげなきゃいけない。逆に、冬は部屋が少し暑いくらいでないと、きれいに色が入ってこない。人間より、ずっと繊細なんだよね。

紙もそう。「留め紙がクルクルっとなってるから、今日はちょっとシケっぽいな」とか、湿度によって印刷を変える。毎日が勉強だなと、この年になっても思うよね。そういう積み重ねを何十年もしてきたから、ひと目見ただけで色の出し方が浮かぶようになるんだ。

7色を順番に重ねて、自動車の色を作ったときは面白かったなぁ。網版をぴったり重ねて花の色を作ったときも、難しかったけど楽しかった。人ができないことをできるようになるのが、職人仕事の醍醐味だね。

俺たちの仕事は、妥協しちゃうと仕事が止まってしまう。「これでいいや」で完成してしまうと、お客さんが満足するものは絶対できないね。だから、「いかにきれいに仕上げるか」「いかに不良を出さないか」これをコツコツ、コツコツ追求する。はた目に見たら、回ってる機械をただ眺めてるだけに見えるかもしれないけど、実はすごく神経を尖らせてチェックしてるんだ。

毎日変化がある仕事は、とてもやりがいがあるね。3代に渡ってこの工場で働いてきたけど、やっぱりここが自分に合ってるなと思う。家族的な雰囲気の町の印刷屋さん。職人同士、難しい仕事にぶつかれば上も下も関係なく、みなで知恵を出し合って解決する。わかる人がわからない人を助ける。これは、創業時からずっと変わらないなぁ。

昭和20年生まれで、今年74歳。定年がないから、これからもここで仕事をし続けるつもりだ。どんなに時代が変わっても、人の手をかけなくちゃいけない仕事はなくならないと思っているから、これからもずっとここにいるよ。

職人STORY 小暮 祐貴

「もっといい色を出したい」その一心で日夜仕事に没頭する毎日

ここで働き始めて、もう10年になりました。今は工場長をしています。何でもオートメーションで大量生産できる時代になりましたが、やっぱり人が欲しくなるのは、人の手で作った物なんじゃないかと思います。

かつてはこの工場にも、大量生産の時代がありました。でも、今は規模を小さくして、大手がやらないような細かなニーズに応える仕事を、自分たちが引き受けています。時代の流れには逆らえないなという気持ちもありつつ、だからこそ他ができないような難しい仕事を任せてもらえて、やり遂げたときの達成感も味わえるので、むしろ面白いですね。

いつも「もっと完成度を上げる方法はないだろうか」と自問自答しています。どんなに頑張っても、この仕事に100%完璧はないからです。社内からも「もっと、ここの色近づけられない?」「もっと、この文字を鮮明にできない?」と厳しい注文が飛ぶので、自然と仕事にはストイックになりますね。「お客様には100%自信を持ってお届けできるものを作れ」と鶴田さんにも叱られます。

そのときに「もう、この色しか出ません」と言うか、「もうちょっと、頑張ってみます」と言うか。そこが、職人として成長できるかどうかの境目だと思います。

シール印刷機は凸版平圧印刷機で、圧を加える印刷なので、きれいに印刷するには高い技術が必要です。色出しは、薄い色ほど難しいですね。一番難しいのは、グレー。色の見え方が光の加減や人の見え方で無限なんです。それから、白が入ると色を定着させるのが難しくなるんですよ。赤みが飛んで黄色く変色しやすくなるので、たくさん作り置きできません。

今後も色を極めていきたいですね。印刷は、やはり色です。街を歩いていても、どうしても色が気になります。色がわかるようになったのは、この仕事のおかげ。まだまだ勉強しなくちゃいけないことがたくさんあります。

そうそう、面白いエピソードを一つ。UV乾燥ではなく自然乾燥が必要なインクで印刷した仕事がありました。吊るして自然乾燥させないといけないんですけど、干す場所を取るんですよ。そこで、2階から1階への非常はしごのハッチを開けて、2階で印刷したものをハッチから1階に次々に下ろして、1階で干したということがありました。自然乾燥のインクを使うのは今では珍しいですから、こんな昔ながらの仕事ができるのも、この工場らしさだなと思います。

pagetop